滴生舎

ニューヨークと東京、世界に発信する浄法寺うるし

漆器への究極のこだわりをカタチにする、滴生舎のプレミアム・オーダー

東京、そしてニューヨークで磨いてきた浄法寺の漆器

滴生舎では、浄法寺漆とこれまでわたしたちが続けてきた漆器製作の経験の可能性を広げるためオーダーでの漆器を行なっています。 このオーダーサービスの本格稼働に先駆け、浄法寺漆器のつくり手たちでプロジェクトチームを立ち上げ、東京をはじめニューヨークなど、世界を代表する都市で展開するレストランのオーナーやシェフたちとディスカッションを重ねながら、浄法寺漆器のオーダー製品の開発や試用などを長年に渡って繰り返してきました。まだまだ発展途上にあるプレミアム・オーダーですが、その歩みを含めて活動の一端をご紹介します。

浄法寺漆器
浄法寺漆器
浄法寺漆器
浄法寺漆器

東京に消費されない“日々のうるし”

東京での展開で目指したのは浄法寺漆器の中心にある“日々のうるし”の可能性を広げることでした。たとえば、浄法寺うるしを丁寧に塗り上げたお椀。滴生舎ではお椀ひとつをとっても、大きさや形状などさまざまなスタイルのものがありますが、そのいずれもが基本的にはご家庭でご使用いただくもの。使い手が日常の暮らしのなかで、日に一度、二度と使い込んでいくものです。浄法寺のつくり手たちはここに価値を置き、生活のなかで末長く使える漆器を目指して仕事を続けてきました。

わたしたちは、この“日々のうるし”の中心にある「生活で使われる漆器」という姿を変えるつもりはありません。しかし、浄法寺うるしで塗り上げられた漆器の素晴らしさをもっと広く、ひとりでも多くの人に感じて欲しいと考えたとき、家庭に届けられる前の漆器が必要だと感じました。つまり、購入していただく前に、手のひらで持ち上げ、口を添えるため、体験のための漆器です。

そこで、協力していただくことになったのが、渋谷ヒカリエ内で展開する「d47食堂」です。

デザイン目線の観光ガイドブック『d design travel』編集部が47都道府県の農畜産物の生産者や器の作り手の想いを伝える、「おいしく正しい日本のご飯」をテーマにしたこの食堂で、浄法寺漆器のお椀でお料理を出していただくことにしたのです。

このプロジェクトでわたしたちが心配したことは“漆器が耐えられるのか”という問題でした。浄法寺漆を塗り重ねた浄法寺漆器はとても丈夫で堅牢そのものです。日常的な使用では簡単に痛むことはありません。しかし、食堂で営業使用されるとなると話が異なります。一般家庭では漆器が使われる機会は多くて1日で3回です。ところが「d47食堂」では1日の使用頻度は、約50客のお椀が6回から7回。土日祝の繁忙期となるとそれを上回る場合もあります。その回数に果たして漆器が耐えられるかどうかが懸案事項になりました。

そこでわたしたちが取り組んだのが定期修理というワークフローでした。道具というものは使えば痛むものです。頻度が多ければ痛む速度も進むものです。それを当然と捉えたときに必要なのは“修理”すること。壊れたものを捨て、新たなものを買い直すのではなく、修理してまた新たな気持ちと共に使い続ける。それこそが浄法寺漆器に求められていることであり、巨大な消費システムにも見える東京という街に浄法寺漆器が消費されないために必要なことだと考えました。

浄法寺漆器
東京
d design travel

修理することが前提にある浄法寺漆器

浄法寺漆器のお椀の木地となる素材は広葉樹の無垢材です。これを熟練の木地師職人が加工してそれぞれの形を作り出していきます。ここから先の完成までの塗りの工程で使われるのはうるし(顔料が含まれる)だけ。浄法寺うるしを塗っては研ぎの繰り返しで堅牢で美しい塗膜を作り出していきます。こうした自然素材のみからなる浄法寺漆器は、そもそも修理しながら使っていくものとして育まれてきました。うるしの塗膜が痛めば、研磨して塗り直し、たとえ木地が割れたとしても修復が可能です。

そこで、「d47食堂」には数ヶ月に1回、塗膜などに痛みが出たものをまとめて送ってもらうようにし、常に修繕のローテンションを組んで使い続けていただくという方法をとりました。結果、2012年にこのプロジェクトがスタートしてから今まで、ひとつの漆器を捨てることなく修理を繰り返し、コンディションを維持しながら漆器の素晴らしさを体験していただく流れを確立することができました。

浄法寺漆器
浄法寺漆器
浄法寺漆器

プレミアム・オーダーの様々な可能性

「とても口触りが良くてびっくりしました」とお客さまの声を伝えてくれたのは「d47食堂」の店長をつとめる渡辺さん。「お客さまの層は30代後半からが多いものの本物の漆器を意識したことがある人は案外少ないのかもしれません。だからこそ、浄法寺漆器のお椀には新鮮なものを感じていただけるようです」と話してくれました。さらには使った後のお手入れの仕方などを質問する方も少なくないようで、改めて“体験”を作っていくことの大切さを感じます。こうした漆器を使う場づくりもまたプレミアム・オーダーの活動を充実させていくものであるからです。

今後は、「d47食堂」の四季折々、日本各地のさまざまな食文化を伝えたいという活動に参加して、現状のお椀以外の漆器の提供も検討しています。たとえば、「おせち料理」として浄法寺うるしで塗り上げたオリジナル重箱の製作などもアイデアのひとつです。また、お椀に口をつけて汁物を飲む習慣が無いような外国人観光客へのアピールとして、酒器や匙といった直接口に触れる食器を浄法寺漆器とすることで、日本文化の体験機会を増やそうというアイデアもあります。 今後も新たな製品づくりや、製品が生きる場づくり、修理を含めた運用方法を通じて、浄法寺漆器の可能性を広げていきたいと考えています。

異なる文化に漆を伝える

浄法寺漆器の可能性をニューヨークで広げる取り組みは2013年から継続して続けてきました。漆器は日本文化を背景に持つわたしたちには馴染み深いものですが、アメリカ人の多くが「うるし」という存在を知りません。ましてや、漆の木からどのようにうるしを採集するかなんて想像したこともないでしょう(うるしの採集の知識の乏しさに関しては日本人でも変わりないのかもしれせんが…)。

そこでわたしたちは、まずニューヨークの方々に「漆」そのものを知っていただくことを費やしました。漆の木からうるしの採集方法にはじまり、うるしの精製、木地作り、そして漆塗りと、漆器製作の工程の流れを映像はもちろん実演も加えてご覧いただき、ご理解いただくように努めました。その結果、ニューヨークの方々からはわたしたちが想像していた以上に漆器の奥深さに興味を抱いてくれたようでした。とくにニューヨークの方々は、自然素材そのものである漆器の姿と、それをかたちにする浄法寺のつくり手の技に感銘を覚えたようでした。

ニューヨーク
ニューヨーク
ニューヨーク

浄法寺漆器を使っていただくために

漆と漆器への理解を深めていただく機会を増やしながら、次のステップと考えたのが実際に漆器を使っていただくシーンをつくっていくことでした。

そこで、マンハッタンに居を構える日本食レストランを中心に実際の業務のなかで漆器を使っていただくことになったのですが、浄法寺のつくり手たちが普段から製作をおこなっている「日々のうるし」を使っていただくとともに、新たな漆器を開発に挑戦することになりました。言うまでもなく漆器は人の食生活に寄り添うものです。それはたとえマンハッタンの高級日本食レストランでも変わりません。ただし、食という文化はその場所その場所で固有なものです。わたしたちの食文化で使われてきた漆器がマンハッタンで使われるとしたら、それはわたしたちの「日々のうるし」とは異なる表情になっていくことは自然な流れだろうと判断しました。その表情とはたとえば、使う人の手のひらの大きさにあわせたかたちもそうでしょうし、マンハッタンのレストランという世界の中で求められるきらびやかさということになるかもしれません。この街に似合う新たな漆器製作を行うことは、わたしたちが大切にしてきた「日々のうるし」の可能性を広げることになっていくと考えたのです。

オリジナル漆器の反響

日本食レストランのオーナーやシェフからヒアリングを重ねて製作した漆器が実際に営業で使われ出した頃、わたしたちはその店舗のひとつひとつを巡る機会を得ました。どのような料理が漆器に盛られるのか、どのような人々が漆器を手に持つのか、実際のオペレーションのなかでの使い勝手は?現場からは様々な意見が生まれていました。

たとえば、オペレーションのなかでの扱いについては、さまざまな文化背景を持つ人たちが働くマンハッタンの厨房では、当たり前のことが当たり前のこととして通用しないこと。それゆえに漆器の扱いの加減がわかりにくく、それが使用の機会を減らしているといった話もありました。また、そもそもの漆器の価値を現場スタッフにいかに伝えるかという部分も課題になっているということがわかりました。 さらには、フルオーダーで製品を作っていくなかでどこまでマンハッタンの食文化に浄法寺漆器を寄せていくかという点も論点になりました。日本の文化である漆器の何を変え、何を残すことで、その本質を守ることができるか。難しい部分ではありますが、この部分を繊細に考えた末にかたちにしていくことができれば、異文化であっても漆器が馴染んでくれるのではないか、そんな期待を抱くこともできました。

その一方で「うるし」という素材が持っている魅力については文化を超えたものがあると感じました。それは、やはり漆器ならではの質感でした。手触りのなめらかさはもちろん、口に触れたときのしっとりとした艶やかな感触の心地よさは初めてのことという高評価を得ました。ただし、これには器を口に持っていく習慣がないアメリカ人に、あえて口をつけるようにとアナウンスしている現場スタッフの努力があってはじめて得られた評価でした。

オリジナル漆器
茶庵オリジナル漆器
レストラン

マンハッタンで深化させるプレミアム・オーダー

今回、実際に浄法寺漆器を使っていただいているマンハッタンの店舗をめぐることで見えてきた課題はさっそく現場へと持ち帰り、次の製品づくりへといかされようとしています。漆器はある意味でとても繊細な器です。ほんの少し木地を薄くするだけで手にしたとき、口につけたときの印象ががらりと変わります。もちろん、塗りの仕上げ方を少し変えるだけで異なる表情をまといます。実際、シェフたちからは、日々のオペレーションのなかで漆器を使うことではじめて見えてきた繊細な部分での改良を求められるシーンもありました。

こうした細かなブラッシュアップを積み重ねていくことは、お互いにとって根気のいる作業ですが、これこそがプレミアム・オーダーだからこそできる到達点につながっていくと信じています。わたしたちは漆器づくりを通じて、新しい景色を見てみたいと願っています。

マンハッタンにて マンハッタンにて
浄法寺漆器
浄法寺漆器 浄法寺漆器

滴生舎のプレミアム・オーダーをお考えのみなさまへ

お客様のご要望をお聞きしながら新たな漆器製作に取り組むというのがプレミアム・オーダーのスタイルです。漆塗りという特性上、できないこともございますが、可能な限りお客様のご希望をかたちにしていきたいと考えています。ただし、漆器製作には長い時間が必要です。試作を繰り返し、木地職人に木地をオーダーし、浄法寺漆を使って何度も塗り重ねて完成させるまでにかかる時間は、「プロダクト」と呼ばれる一般の製品づくりとは全く異なるものです。当然、コストも下げることも困難です。それでもなお、世の中にないものを作りたいと願うみなさまと一緒に独創的なモノづくりができますと幸いです。

滴生舎のプレミアム・オーダーをお考えのみなさまへ

※ニューヨークでのこれまでのプロモーションの詳細についてはこちらをご覧ください。
https://urushi-joboji.com/kaigai