世界に誇る浄法寺うるし

国内で使用される漆のうち、国内産はわずか5%たらずだ。かつては漆器の産地は漆の産地でもあった。伝統的工芸品の漆器の産地は1府16県あるが、漆を生産している県は、わずか1府9県。国産漆の生産地は県別では岩手県がトップで、令和元年は、岩手県が1,488㎏、次が茨城県の307㎏、栃木の120㎏とつづく。国内生産量の約75%が岩手県、その全量を二戸地域の浄法寺漆が占めている。(令和2年 農林水産省 特用林産物生産統計調査 より)

二戸市浄法寺町は日本で一番うるし掻き職人が多い場所だ。昔から漆の産業が盛んで、地名にも漆沢、漆畑、漆原などが残っている。40年代以降、全国的に漆の生産も、職人も減少したのは、ここ浄法寺も同じだ。それをくい止めようと、浄法寺では昭和53年から、ウルシの木の植栽を始めた。その結果、国内最大の原木資源を誇る地域となっている。11月13日のうるしの日には記念植樹も行っている。

国産漆の産地・主な漆器の産地

国産漆の産地・主な漆器の産地

図表
1 国内、岩手県、浄法寺漆生産量 出典 林野庁特養林産基礎資料、二戸市
2 各地の伝統的工芸品の漆器産地

漆器の産地(経済産業大臣指定伝統的工芸品)

青森県 津軽塗(1975年)
秋田県 川連漆器(1976年)
岩手県 秀衡塗(1985年)、浄法寺塗(1985年)
宮城県 鳴子漆器(1991年)
新潟県 村上木彫堆朱(1976年)、新潟漆器(2003年)
福島県 会津塗(1975年)
神奈川県 鎌倉彫(1979年)、小田原漆器(1984年)
長野県 木曽漆器(1975年)
岐阜県 飛騨春慶(1975年)
石川県 輪島塗(1975年)、山中漆器(1975年)、金沢漆器(1980年)
富山県 高岡漆器(1975年)
福井県 越前漆器(1975年)、若狭塗(1978年)
京都府 京漆器(1976年)
和歌山県 紀州漆器(1978年)
山口県 大内塗(1989年)
香川県 香川漆器(1976年)
沖縄県 琉球漆器(1986年)

うるしの森は「文化財の森」

国宝や重要文化財などの大切な国の宝を、後世に伝えるには修理が必要だ。日本の文化財のほとんどは、天然の材料でつくられているので、漆器などの補修に使う漆、茅葺き屋根の茅などの資材の確保と、これらの資材を扱う技能者を育成しなければならない。このため、文化庁では、資材の供給林及び研修林となる「ふるさと文化財の森」を設定して、技術の研修、普及啓発事業を行う「ふるさと文化財の森システム推進事業」を実施している。

二戸市が所有する明神沢地区の約4haのうるしの森は、「ふるさと文化財の森」第一号として、平成19年に認定を受けた。市内全域では、ウルシ林が144ha、ウルシ原木数が21万本となっている。ウルシ苗木補助制度によりウルシ木植栽を推進している。

ふるさと文化財の森

日本地理的表示登録品 浄法寺漆

浄法寺漆は品質特性と産地を保証する特定農水産物の地理的表示(GI)登録産品です。

■登録番号
第73号
■登録年月日
平成30年12月27日
■名称
浄法寺漆(じょうぼうじうるし)
■生産者団体
岩手県浄法寺漆生産組合
■特性
硬化後の強度が非常に優れているうえに安定した品質を有する漆。透明度、硬化時間、粘度などのバリエーションが豊富であり、耐久性に優れている。
■生産地の範囲
岩手県全域、青森県三戸郡、八戸市、十和田市、秋田県鹿角郡小坂町、鹿角市、大館市
浄法寺地図
浄法寺漆

2つのマークが保証する浄法寺漆

地理的表示(GI)保護制度

地理的表示(GI)保護制度

地域で長年育まれた特別な生産方法によって、高い品質や評価を獲得している農林水産物・食品の名称を品質の基準とともに国に登録し、知的財産として保護するものです。

浄法寺漆認証マーク

浄法寺漆認証

国内唯一の漆の認証制度。二戸市が設置する第三者機関の浄法寺漆認証委員会が認定した漆には、ブランドマークが付けられます。

二戸地域の漆文化

 江戸時代には盛岡藩の奨励で植林をしていた記録があり、この地域にとってウルシの木は古くから貴重な財産でした。下草刈りや蔓性植物の除去など、適正な管理がなければ樹液を採取できる木には育たないため、地域の人たちは長年にわたり、ウルシの木にとって最適な生育環境を整えることに努めてきました。

 また、一年で漆を採り尽し木を伐採する方法へ移行した明治期以降は、伐採後に芽吹く萌芽を管理することでウルシの林を再生することに取り組み、その方法が現在にも受け継がれ、自然と共存しながら浄法寺漆を生むウルシの林を守り育てています。

継承されてきた漆掻きの技

 明治期に、豊富なウルシの木を求めて「越前衆」と呼ばれた福井県今立地方の漆掻き職人が二戸地域まで出稼ぎに来るようになり、一本の木から一年ですべての漆を採り尽くし、伐採する採取方法とそのための道具が伝えられました。木の状態の見極めや道具を扱う感覚も含め、漆掻きの技術として、現在の職人に受け継がれています。

平成8年には、漆搔き技術の保存と振興を目的に、日本うるし掻き技術保存会が発足し、「日本産漆生産・精製」の分野で、国の選定保存技術団体として認定を受け、これまで伝承者の養成と漆搔き技術の錬磨などに取り組んでおります。

令和2年12月には「漆搔き技術」がユネスコ無形文化遺産「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」として登録となり、世界が認める技術となりました。

《伝統建築工匠の技とは》
「伝統建築工匠の技」の保存・活用及び発展を推進する会(略称:伝統建築工匠の会)のページからご覧いただけます。

【リンク】https://kenchikukosho.jp/
ユネスコ無形文化遺産「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝統技術」として登録

職人の技術と採取時期が漆の特性を生む

漆は採取時期や採取する職人の技術的な個性によって、性質に豊富なバリエーションが生まれます。

初漆(はつうるし)6月中旬~7月中旬…乾き(硬化)が早いという長所があります。
盛漆(さかりうるし)7月中旬~9月中旬…艶や硬化した際の透明度が良く最高品として塗りの仕上げ段階で使用されます。
末漆(すえうるし)9月中旬~10月…塗りに使用した際、塗膜に厚みがでるという長所があります。
裏目漆(うらめうるし)10月~11月…粘性が強く、主に塗りの下地用として使用されます。

《お問い合わせ》
岩手県浄法寺漆生産組合
〒028-6892 岩手県二戸市浄法寺町下前田37-4 二戸市役所浄法寺総合支所内
TEL:0195-43-3172

二戸市漆の郷づくり推進課
〒028-6892 岩手県二戸市浄法寺町下前田37-4
TEL:0195-38-2211(代)

うるしびとの物語

漆を掻くひと、漆を塗るひと、漆掻き道具をつくるひと…
この地域に生きる、うるしを生業として生きる人々の物語を集めました

小説で楽しむうるしの世界