ユネスコ無形文化遺産に「和食:日本人の伝統的な食文化」が登録された。和食のシーンは漆器のホームグラウンド。苦手なのはナイフとフォークだけ。酸にも強いから、酢の物も大丈夫。抗菌作用もあるからお弁当にも最適だ。
素材を生かすという和食のスタンスは、漆器にも共通する。日本の素材は、単に食材だけではない。生きている時間、季節そのものも素材だ。花は咲く、花は散る。そしてまた咲く。日々、刻々と変わる季節の移ろいを、また出会えた季節に感謝し、楽しみながら生きる日本の美意識が凝縮しているのだ。北から南まで、地域の食文化を支えてきたそれぞれの土地の漆器がある。
和食のフォーマルは、会席料理だが、その和のフルコースのなかで、特に和食の華とされるのが椀盛。旬の食材と、「出汁」の旨味がひとつになり、漆器に盛られて供されてきた。春の山菜、秋のきのこのように、食卓に季節が映える。
そして、正月などの年中行事の行事食は漆器の出番。お雑煮、節句のちらし寿司、お花見弁当、彼岸のおはぎ、結婚式での三三九度や、お盆の霊具膳など、日本の暮らしと漆器は共にある。
家での晩酌をするときも、漆器はちょっといい時間をくれる。長い歴史があるだけに、日本酒との相性はいわずもがなだ。ぽってり目のぐいのみも、薄くフェイドアウトするような縁の盃も、唇に触れるやわらかさが心地よい。通の人は器によって、酒の味も変わるという。いろいろ試すと、新しい楽しみ方が生まれるだろう。
お酒を飲む酒器として、古酒や純米酒がすすめられる傾向にあるが、熱を伝えづらいので、大きめの漆のカップで冷やした大吟醸やビールにも最適なのである。
そして家呑みで嬉しいのは、漆器を使うとアテも粋になることだ。冷や奴やチーズだけでも、ぐんと風情がアップして、バー気分で酔いのひとときを楽しめる。
仲間が集まるようなパーティーで、テーブルにうるしの片口がおかれるだけで、ぐんとグレードが上がる。清酒でも、どぶろくでもいい。オレンジを入れたサングリアも華がある。大ぶりではあるが、酒を飲まないときに煮物などよそうのも一興なので、家庭にあるとなにかと演出に使える。