2022.04.18
GWまであと10日ほど。
「おわん展」に参加する作り手を続々ご紹介いたします。
初めはやっぱり岩舘隆さん(浄法寺漆器工芸企業組合)。
今日の浄法寺の塗物は、この人無くして語ることができません。
「浄法寺塗」は実は一時ほぼ途絶えてしまった塗りものです。
それは、この地域において塗り物が本当に一般的なものであったから。
物流が良くなった途端に、別の便利で安価な食器と置き換わってしまったようです。
そんななか、約40年前に浄法寺塗を復興させたのが「岩舘隆」さん。
当時、県の工業試験場などと共に、「これからの時代に合ったスタイル」を意識して
無地で素朴な器を産みだしました。色味を「朱と溜」の2パターンとし、磨きをかけない仕上げで漆そのものの質感を生かそうと考案。
使い込むほどの表情が変わり、浄法寺漆の個性がしっかり味わえるこの塗りは、着々と時を超え、私たちの食卓を彩っています。
隆さんのお父様は漆掻き職人。
一度は県外の企業へ就職した隆さんでしたが、
帰ってきて、父親達の「浄法寺漆」を生かした塗物を作るという選択をしました。
父親の足跡を辿るということではなく、新たな手段で漆文化をつなぐ・・・
このチャレンジに不安は無かったか聞いても
「だってやるしかなかったのよ」
「3年持てばいいって言われてさ。周りの期待もそんなもん。」
とニコニコ。いやいや、その数年間が苦しかったはずです。
岩舘さんの「汁椀」シリーズはこの頃生まれました。
隆さんの定番商品。「汁椀」
工房をスタートさせてしばらくは、商品をこのお椀だけに集中させて、浄法寺塗りのファンを作っていったそうです。
今まで何万件の食卓に行き渡ったのかわかりません。
もしかしたら、それが「浄法寺塗」かどうかなんて、気に止めてない人もいるかもしれない。
でもこのお椀はそのくらい、食卓で「あたりまえ」に良い仕事をしてくれていることでしょう。
そんなシンプルなお椀だからこそ、これだけ時を超えてこられたのだろうなと、隆さんのお椀を見ると思うのです。
また、滴生舎には長年愛用されたお椀が修理で持ち込まれることもあります。
ご家庭ごとにエピソードがあり、
時間がかかってもお金がかかっても、塗り直して使い続けたいというお客様の声を聞くたびに
隆さんがコツコツ積み上げてくれた浄法寺塗りの歴史を感じ、
私たちもまた、ちゃんとバトンを繋ぎたいと、身が引き締まります。
修理依頼で受け付けた汁椀。傷こそあるものの、深まった色味と艶に、愛用されていたことを感じる。
隆さんの工房にて。ずらりと並ぶ中塗りのお椀。
ここ10数年、隆さんは自身で漆掻きもしています。
なので使用する浄法寺漆は自前。
漆を採って塗るというのは、一見一連の流れのようですが
それぞれに技術や経験、そして体力や精神力を要するのでどちらもこなすというのは大変なこと。
隆さんにそれができるのは、心強い息子さんが共に工房を支えているからです。
今回の「おわん展」には息子・巧さんも登場。
ブログでもご紹介しますね。
記 塗部屋のM
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「おわん展」
手のひらにしっくりくる漆のお椀を、じっくり探してみてください。
会期:2022年4月29日~5月8日
8:30~17:00 (会期中無休)
会場:滴生舎
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岩舘巧さんは浄法寺漆器工芸企業組合で上塗りを一手に担う、縁の下の力もち。 父・隆さん同様、一度は就職で県外へ出ましたが、地元に戻り、漆を塗る道を選びました。 &...続きを読む