うるしの國の物語

古くから、漆とともにあった二戸地域。縄文時代の遺跡から漆を塗布した石刀や土器が出土するなど、その関わりは永く深い。平安時代には、現在の浄法寺塗につながる漆器の製作が始まったと伝えられている。南部藩が宝とした南部箔椀もつくられた。そしていまはうるしを育て、掻き、塗る…うるしのいのちのサイクルと浄法寺はつながっている。

御山御器

御山御器

うるしと生きる浄法寺

浄法寺の縄文遺跡から赤い漆が飾りについた、石刀が見つかった。それがこの地での最初のうるしだ。多くは解明されていないが古くから漆が身近にあったことがうかがえる。次に歴史に現れるのは「浄法寺塗」。その起源は、平安時代にまで遡る。地元の人が「御山」と呼ぶ古刹・天台寺の僧侶たちが、日々の食事に使うため自ら作った器がその由来といわれている。装飾のほとんどない、素朴で実用的な普段使いの器。現在に続く浄法寺塗の特徴は、質素倹約を旨とした寺の生活が育んだものだったようだ。地元には今も古い時代に用いられた漆器の呼称として、飯椀・汁椀・皿の三ッ椀を指す「御山御器」の名前が残り、天台寺との深い関わりを伝えている。やがてそれらの器は参拝者にも供されるようになり、塗りの技術も次第に庶民に広がっていくこととなる。

 もともと、浄法寺やその周辺地域は漆の木が豊富な地であり、そんな背景が浄法寺塗の発展に寄与したことは想像に難くない。藩政時代、漆は盛岡藩の貴重な産物だったが、藩全体の約47%が浄法寺を含む二戸地域からの産出だったとの記録が残っている。

 明治時代に入ると、古くから漆掻き職人の多かった福井県今立地方からの出稼ぎ職人が岩手へと進出してくる。「越前衆」と呼ばれた彼らは、それまでの木を長く生かしながら樹液や実をとる「養生掻き」に変わり、より多くの樹液を得ることができる「殺し掻き(木はその年には切ってしまう)」を広めたほか、漆掻きの道具をこの地にもたらした。漆生産量の増加にも伴い、「庶民の漆器」である浄法寺塗の需要は大正・昭和にかけて高まり、その販路は海外にまで広がっていった。

 時代は進み、太平洋戦争の頃。漆は国の統制品となり、その全ては国に納められることとなる。また戦後間もない物資が乏しい時代には、限られた量の国産漆は高値で売買された。図らずも、先の大戦は浄法寺漆に盛況の時代をもたらした。

 しかし戦後、時代や生活様式の変化、価格の安い輸入漆の増加に伴い、浄法寺塗は途絶え、浄法寺の漆は困難な時代を迎える。

 そんななか浄法寺漆を使う、浄法寺塗が地元で復活。その拠点として、平成7年に、二戸市浄法寺漆芸の殿堂「滴生舎」がオープンした。以来、国内産の木地に、浄法寺漆をひたすら塗り重ねた、すべて国産の素材で仕上げた漆器の製作と販売を中心に、浄法寺漆を使う作家の作品も販売している。

 地域の伝統を後世へ、日本の誇る漆文化を世界へ。滴生舎を拠点に、地域ぐるみで「浄法寺漆の世界」を伝える活動が、現在進行形で続いている。

漆掻きの様子

漆塗りの様子

メイド・イン・浄法寺

浄法寺漆

漆掻きが受け継ぐ伝統
浄法寺漆

現在、国内で流通している漆の97%以上が輸入によるもので、国産はわずか3%。そのうちの約70%が、二戸地域を中心に生産されている浄法寺漆である。

 時代の変遷と輸入漆の増加に伴い需要が激減した国産漆だが、平泉の中尊寺金色堂や京都の鹿苑寺金閣、世界遺産の日光の二社一寺など、日本を代表する国宝建造物の修復に使用されたことで、その品質の良さが再評価されている。文化庁では、平成30年度から国宝などの建造物の修復にはすべて国産漆を使用する方針を通達。国を挙げて、国産漆の需要拡大、生産に携わる人材の育成も進められている。

 二戸市でも、全国から研修生を受け入れ、「うるしびと」として、地域に伝わる漆掻きの技術の伝承と、次世代を担う漆掻き職人の育成に取り組んでいる。同時に、官民が協力して植樹を行うなど、漆の木を育て、漆の森を守る活動も広がっている。

浄法寺塗

浄法寺漆を贅沢使用
浄法寺塗

やわらかな口当たりや、手のなかでなじむ木のぬくもり、熱を伝えにくいという漆器の特性は、熱いものを入れても扱いやすい。シンプルで堅牢な「暮らしの器」である浄法寺塗は、使うごとに艶を増し、修理や塗り直しをしながら世代を超えて使い続けられる漆器だ。持続可能な社会を目指す現代の暮らしにフィットするものとして、今、改めてその評価が高まっている。二戸地域で生まれた浄法寺塗だが、盛岡市などでもつくられている。

 地域でウルシの木を育て、漆を掻き、国産の木地に浄法寺漆を塗り重ねてつくる浄法寺塗は、いわば「究極の漆器」。平成25年度には二戸市が主体となり「にのへブランド海外発信事業」をスタートさせ、その魅力をニューヨークをはじめ海外にも広く発信している。また市では、浄法寺塗の椀と匙を市内の子どもに無料で貸し出す「うるし・はじめ事業」を実施。幼いうちから漆器に身近に触れる経験は、地域の伝統工芸に対する理解を深め、その伝統を守り伝えることにもつながっていくはずだ。

うるしびとの物語

漆を掻くひと、漆を塗るひと、漆掻き道具をつくるひと…
この地域に生きる、うるしを生業として生きる人々の物語を集めました